戦後日本と国家神道 Ⅰ

 

第2回:「王権と宗教の日英比較」

梅川正美×島薗進

今回は英国政治史研究が専門の梅川正美先生とともに、王権の神聖性について英国と日本を比較しながら考えていきたい。まず両者の論点を提示する。

梅川正美(愛知学院大学名誉教授)
「イギリスにおける王権と宗教――日英王権比較のために」 

この報告の目的は、王権と宗教との関係についての日英比較のための、イギリス側の資料の提供にある。その際、第1に、イギリスの王が、 宗教的な神聖化に失敗するのだが、その理由は何か。この点について、特にイングランド教会の持っている特徴を基礎として考える。第2に、王が神聖化されないなら、どのような存在なのか。じつは王の役割は、宗教的な「信仰」の「守り手」であった。ただ「信仰」は18世紀くらいまでは、イングランド教会の信仰を意味していたので、その「守り手」の役割は、他の宗教の規制=非寛容の実施であった。しかし他の宗派・宗教の抵抗は強く、次第に王権は追い詰められて、他の宗派・宗教に対しても 規制緩和(=寛容)政策に変更をよぎなくされる。王権がさらに後退すると、王が保護するのがイングランド教会だけであることが問題になり、他の宗派・宗教に対しても「守り手」として登場せざるを得なくなる。王権は、19世紀から現代になるにしたがって、議会と政府によって行われるようになる。その結果、現代では、議会や政府による、市民の信仰支援の政策がとられるようになっている。それは教育や軍事などの分野にもみることができる。これらの内容についてもふれる。

島薗進(東京自由大学学長、東京大学名誉教授)
「日本の王権はなぜ高度に神聖化されたのか」

日本では明治維新以後、天皇が高度に神聖化され、1945年の敗戦までそれが続いた。そして、今もその名残が完全になくなったわけではない。天皇の神聖化の基盤は古代国家形成期にかたちづくられており、中世・近世にも神聖天皇の一定の機能は継続してきたが、それが強く機能するのは江戸時代の末期以来でのことだ。尊王攘夷運動を通して国体論が大きな役割を果たし、明治維新後の国家形成において、その中核に神聖天皇崇敬が制度化されていったことによる。神聖天皇崇敬は伊勢神宮、靖国神社、そして全国の神社の組織化によって支えられる。また、軍隊や学校が神聖天皇崇敬を養う場として大きな役割を担うことになった。教育勅語は「勅語」という形式においても、それを聖なるものとして礼拝の対象としたことによっても、「皇祖皇宗」や「天壌無窮の皇運」を尊ぶ内容においても神聖天皇崇敬の育成に大きな役割を果たした。戦後においても、天皇が行う神道儀礼はほぼ戦前のままに保持され、神聖天皇崇敬を尊ぶべき国家的伝統と考える勢力が保守派に根強く存続してきている。

 

 

以上のように、それぞれが英国と日本の王権と宗教の関係について論じた上で、この相違がもつ意味と今後の展望についても話し合っていきたい。


梅川正美 Umekawa Masami

1949年生まれ。名古屋大学大学院法学研究科博士課程中退。愛知学院大学教授を経て、現在愛知学院大学名誉教授。主な著書に、『サッチャーと英国政治(全3巻)』(成文堂、1997年~2008年)、『イギリス政治の構造』(成文堂、1998年)、『ブレアのイラク戦争』(共編著、朝日新聞社、2004年)、『現代イギリス政治』(共編著、成文堂、2006年)、『イギリス現代政治史』(共編著、ミネルヴァ書房、2010年)、『比較安全保障』(編著、成文堂、2013年)、『昔話とアニメの中の政治学』(成文堂、2019年)など。

島薗進 Shimazono Susumu

宗教学者/東京大学名誉教授、NPO法人東京自由大学学長、大正大学客員教授。1948年生。東京大学大学院博士課程・単位取得退学。東京大学大学院人文社会系研究科・教授、上智大学大学院実践宗教学研究科・教授、上智大学グリーフケア研究所所長を経て、東京大学名誉教授、NPO法人東京自由大学学長、上智大学グリーフケア研究所・客員所員、大正大学・客員教授。専門は近代日本宗教史、宗教理論、死生学、生命倫理。著書:『宗教学の名誉30』(ちくま新書、2008年)『国家神道と日本人』(岩波書店、2010年)、『日本人の死生観を読む』(朝日新聞出版、2012年)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日新聞出版、2019年)など。


概要

日程  2023年4月9日(日)

時間  14:00~16:30

受講料 【オンライン(見逃し配信あり)】
    一般:2500円

      会員:2000円

    学生:1500円

    会員学生:1000円
※見逃し配信はオンライン参加のお申し込みをされた方全員に対し、講座終了後から数日内に、YouTubeの限定公開のリンクをお送りいたします


※この講座は終了しました。