シリーズ講座 医療と死生学

第2回腎不全医療の未来と死生学

講演:堀川惠子「『透析を止めた日』で問うたこと」

コメント:西裕志+石橋由孝

司会・コメント:島薗進

 

現代医療はどこまで当事者の痛みを受け止める姿勢を培ってきただろうか。腎不全医療の場合を考えてみよう。腎不全は死を意識することを余儀なくさせる辛い疾患だ。ところが血液透析により、通常の生活に近い状態を維持させることに大きな役割が与えられて来た。だが、血液透析による治療には限界がある。その後のことを考えれば、緩和ケアは不可欠だ。そして、WHOの定義にあるように緩和ケアは全人的なケアであり、ケアする側も死に向き合う姿勢を求められている。

 

しかし、これまでの医療ではそのような姿勢が十分であったとは言えないのではないか。緩和ケアの重要性はがん治療の領域では長く唱えられ、それなりの努力が積み重ねられてきたが、異なる疾患の領域では軽視されてきたきらいがある。

 

腎不全の夫を看取る経験を描いた堀川惠子氏の『透析を止めた日』(2024年)は、期せずして医療界にこうした問いを投げかけた。身体的な痛みを緩和することはもちろん、人々のいのちの痛みを意識した全人的ケアのあり方を問う死生学的な問題意識は、こうした問いに深く関わるものだ。

 

それは未来の医療を問う上で重要な問いである。これまでの医療のどこに問題があり、どのように変わっていく必要があるのか。腎不全医療を例として、医療的ケアに問われているものを明らかにしていきたい。今回は堀川氏のお話をうかがい、腎臓内科の医師の立場から、東大病院の西裕志准教授、日赤医療センターの石橋由孝医師、そして死生学の立場から東京自由大学の島薗進学長がコメントを行い、4人で話し合っていきたい。


堀川惠子 Horikawa Keiko

ノンフィクション作家。広島大学特別招聘教授。1992年、広島大学総合科学部を卒業後、広島テレビ放送に女性初の報道記者として入社。12年間、記者・ディレクターとして制作現場で勤務。この間に手がけた番組で、民間放送連盟賞・最優秀賞、放送文化基金賞などを受賞。2004年、東京に活動の場を移して独立。NHKを中心に数多くのドキュメンタリー番組を制作。日本のテレビ界で最高の賞とされるギャラクシー賞大賞、アメリカの国際フィルム・ビデオ祭・銀賞などを受賞、個人賞として放送ウーマン賞、放送人グランプリ。2013年以降はノンフィクション作家として、活動の場を出版業界に移す。『死刑の基準』(日本評論社)で講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命』(講談社)で新潮ドキュメント賞、『教誨師』(講談社)で城山三郎賞、『原爆供養塔』(文藝春秋社)で大宅壮一ノンフィクション賞、日本記者クラブ賞、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、『戦禍に生きた演劇人たち』(講談社)で国際演劇評論家協会・AIC演劇評論賞、『狼の義 新 犬養木堂伝』(KADOKAWA)で司馬遼太郎賞、『暁の宇品』(講談社)で大佛次郎賞など、数多くの文学賞を受賞。2024年11月の最新刊『透析を止めた日』(講談社)は出版直後から大きな反響を呼び、現在も版を重ねている。本件に関連して自民党有志が勉強会をたちあげ、5月中に厚労省と関連学会に対して腎不全患者への緩和ケア拡充を求める提言を発表する見込み。執筆の傍ら、讀賣新聞社・読書委員、日本テレビ・番組審議委員、開高健ノンフィクション賞、アジア・太平洋賞・選考委員などを歴任し、日本のジャーナリズム界を牽引する。

西 裕志 Nishi Hiroshi

東京都出身。2001年東京大学卒業。同大学院博士課程や米国ブリガム・ウィメンズ病院や文科省技術参与等を経て2022年より同大学腎臓内科学准教授。人工透析を含む腎疾患の診療と教育に従事。研究テーマは腎疾患とその合併症のメカニズム解明と疫学的評価。

石橋 由孝 Ishibashi Yoshitaka

腎臓内科医。1995年東京大学医学部医学科卒業。三井記念病院内科腎センター、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター腎疾患総合医療学講座を経て、2012年より日本赤十字社医療センター腎臓内科・血液浄化センター部長。慢性腎臓病、透析および移植医療、腎代替療法選択支援、終末期医療に長年携わる。臨床現場における意思決定支援や患者・家族の語りを重視し、腎疾患・腎不全医療と死生学の接点を、現場実践および全国の医療者や死生学者(人文系)との交流を通じて探究してきた。

島薗進 Shimazono Susumu

宗教学者/東京大学名誉教授、NPO法人東京自由大学学長、大正大学客員教授。1948年生。東京大学大学院博士課程・単位取得退学。東京大学大学院人文社会系研究科・教授、上智大学大学院実践宗教学研究科・教授、上智大学グリーフケア研究所所長を経て、東京大学名誉教授、NPO法人東京自由大学学長、上智大学グリーフケア研究所・客員所員、大正大学・客員教授。専門は近代日本宗教史、宗教理論、死生学、生命倫理。著書:『宗教学の名誉30』(ちくま新書、2008年)『国家神道と日本人』(岩波書店、2010年)、『日本人の死生観を読む』(朝日新聞出版、2012年)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日新聞出版、2019年)など。


概要

日程  2026年2月8日(日)

時間  14:00~16:30
受講料 一般:1500円
     会員:1000円
     学生:500円

会場  東京大学医学部鉄門記念講堂
    (本郷キャンパス)

     文京区本郷7丁目3−1

定員  200名


※この講座は終了しました。