NPO法人東京自由大学主催シンポジウム

ロシア・ウクライナ戦争と宗教・文化
井上まどか×袴田玲
×乗松亨平
司会:島薗進

2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始してから半年以上が経過したが、戦火は止むことがなく、すでに多くの人命が失われている。早く戦火が収束することを願うばかりだが、それにしてもなぜこのようなことが起こったのか。

この大惨事を宗教・文化の側面から見るとき、まず気づくのはプーチン大統領がロシア正教会と密接な連携関係にあることだ。それとともに、ウクライナにおける正教会のロシアからの独立や、世界各地の正教会からの批判の声なども報道されている。

核戦争への展開が懸念されるような深刻な事態に直面して、現代のロシアやウクライナの人々はこれをどのように受け止めているのか。平和のために声をあげ、行動をするにしても、ロシアとウクライナの人々の考え方とその背後にある歴史についての理解を深めることが不可欠だろう。宗教・文化という観点から考察が求められる所以である。

このセミナーでは、正教会(東方正教会・ギリシャ正教)の元であるビザンツ帝国にまで遡って、宗教と国家の関係、また正教会の信仰のあり方について考えてみたい。私たちがいくらかの親しみをもって知っていると思うキリスト教(カトリック・プロテスタント)と正教会の違いは何か。聖なるものと現世的なものの関係、また、宗教と国家の関係という点でどう異なるのか。正教会の歴史のなかで、現代のロシア正教会はどのように捉えられるのだろう。

あわせて、現代ロシアにおいて人々は宗教をどう受け止めているのか。プーチンと戦争を支持する考え方の基盤は何なのか、そこに宗教がどう関わっているのかについても学んでいきたい。プーチンはどのようにロシア正教会の影響力を利用しようとしてきたのか。こうした動きと現代ロシアの思想はどう関わっているのか。多文化を統合しつつ勢力拡充を図る帝国的な考え方と、正教会及びロシア的なナショナリズムを強調する考え方とはどう関わるのか。長く正教会やロシアの文化・思想の研究を進めてこられた専門家の方々のお話をうかがいつつ、「ロシア・ウクライナ戦争と宗教・文化」について考えていきたい。

 

プログラム

14:00~14:10 開会挨拶(島薗進)

14:10~14:40 講演① 井上まどか

14:40~15:10 講演② 袴田玲

15:10~15:40 講演➂ 乗松享平

15:40~15:50 休憩

15:50~16:50 討議

16:50~17:00 閉会挨拶(島薗進)


現代のロシア正教会による「正教文化教育」と
軍事行動への関わり

2022年2月24日以来、ロシア正教会のキリル総主教はウクライナへの軍事侵攻を推進するような発言や行動を行なっています。ロシア正教会は軍隊とどのように関わってきたのでしょうか。また、国家とどのような関係を結ぼうとしてきたのでしょうか。本講演では、この問いに対し、ソ連解体以降のロシア正教会による「正教文化教育」に注目し、「祖国」をめぐる認識がどのように形成されつつあるかを探ります。

井上まどか Inoue Madoka
宗教学・近現代ロシア宗教史研究。清泉女子大学文学部准教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。近現代のロシアにおける政治と宗教の関わりを、断絶と継承という視点から教育分野に注目して考察・研究している。主な共編著に、『ロシア文化の方舟―ソ連崩壊から二〇年』(東洋書店)、著書に『ヨーロッパの世俗と宗教-近世から現代まで』(共著、勁草書房)、『〈オウム真理教〉を検証する』(共著、春秋社)など。


ビザンツ帝国と正教会

ビザンツ帝国(東ローマ帝国)は、1453年にオスマン帝国によって滅ぼされるまで、キリスト教を国教とし、東方キリスト教諸国の盟主として高度に発達した文化を誇っていた。現在のロシア正教会の母体となっているのも、ビザンツ帝国の正教会である。ビザンツ帝国において、国家と宗教(正教会)の関係はいかなるものであったのか。ロシア正教会は同帝国から何を受け継ぎ、何を変質させたのか、探ってみたい。

袴田玲 Hakamada Rei
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学、博士(文学)。日本学術振興会特別研究員等を経て、現在、岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究学域講師。専門は東方キリスト教思想。ビザンツ帝国末期に隆盛した修道思想(へシュカスム)とその中での身体の位置づけに関心を寄せてきた。近年は当時の修道思想の広がり(一般民衆への影響やマリア崇敬について)を中心に研究している。


現代ロシアのナショナリズムと「一体性」概念の歴史

ロシアのウクライナ侵攻の一因として、プーチンが2021年に発表した論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」にみられるような、ナショナリズムの思想が挙げられています。本講演では、現代ロシアのナショナリズムについて概観したうえで、プーチン論文のタイトルにある「一体性」という概念の歴史を、19世紀のスラヴ派以来の宗教・ナショナリズム思想にたどります

乗松亨平 Norimatsu Kyohei
ロシア文学・思想研究。東京大学大学院総合文化研究科教授。1975年生。主な著書に『リアリズムの条件 ロシア近代文学の成立と植民地表象』(水声社)、『ロシアあるいは対立の亡霊 「第二世界」のポストモダン』(講談社)、共編著に『ロシア文化 55のキーワード』(ミネルヴァ書房)、訳書にトルストイ『コサック 1852年のコーカサス物語』(光文社)など。


島薗進 Shimazono Susumu

宗教学者・東京大学名誉教授。現在、上智大学大学院実践宗教学研究科研究科長・特任教授、同グリーフケア研究所所長、同モニュメンタニポニカ所長、NPO法人東京自由大学学長。主な著書に、『国家神道と日本人』『愛国と信仰の構造』『近代天皇論』など。


概要

日程  2023年1月8日(日)

時間  14:00~17:00

受講料 一般:2500円

      会員:2000円

    学生:1500円

    学生会員:1000円
※オンライン開催のみとなります。
【見逃し配信あり】
見逃し配信はオンライン参加のお申し込みをされた方全員に対し、講座終了後から数日内に、YouTubeの限定公開のリンクをお送りします。
※この講座は終了しました